美音の架け橋

お世話になっている調律師M氏のもとオーバーホール中のスタインウェイを試弾しに、関門海峡を超え山口県へ出かけました。福岡生活にどっぷりつかった今の僕には、海峡を超えることは異国の地に足を踏み入れるようなもの。新幹線で海底トンネルを通ることは多々あっても、陸の上から関門海峡を見渡すのはどれくらいぶりだろう。たぶんその記憶は子供の頃にまで遡らなければなるまい。本州と九州を隔てるわずか数キロの海の道。晴天だったこともあり、穏やかな港の景色が群青色の空に生え渡っていました。日本的な情緒ある風景です。車で橋を走り抜け、この先に待っているスタインウェイピアノとの出会いに心躍らせます。

ショールームとオーバーホール中のスタインウェイが待つ工房の両方で何台かのグランドピアノを試弾させて頂きました。目当ての小型スタインウェイグランドは1930年代のボディとは思えない眩い輝きを放っており、ニューヨーク製らしい明るく弾んだサウンドを持ち合わせています。タッチ感もよく調整されており、残すは整音作業でオーナー好みのサウンドに近づけていくとのこと。ただ、基音の重量感、弾きごたえの不足感がどうしても拭えず今回はパスすることに。これはサイズによるところの限界なのかもしれません。他に試弾したもので、整備済みの素晴らしいヤマハグランドが目にとまり、とりあえず新居で練習するピアノが必要だったので代わりにこちらを購入。スタインウェイについては希望の型と年代を伝えて入荷情報を気長に待つことにしました。新居に防音室を作ることを決め、その部屋に丁度いいピアノを探すべく知り合いやネットの情報を集め始めて二ヶ月ほどが経過。ピアニストにとっての楽器選び。こだわりだすとキリがない世界ですが、都市部の住居環境ゆえの妥協もあり難しい選択です。ひとまずこれで引っ越しからのゴタゴタがひと段落しそう。