シューベルトの映画

モーツァルトの生涯を描いた名作「アマデウス」があるのなら、シューベルトの映画もあるはずと思い、調べてみると「未完成交響楽」という1933年に製作されたモノクロ映画があるらしいことが分かりました。さっそく取り寄せて観てみることに。ストーリーの展開がいたってシンプルな古き良き時代の映画。未完成交響曲を作曲していた頃のシューベルトと、恋愛模様が描かれています。シューベルトはハンガリーの貴族エステルハージ家の音楽教師として招かれ、一夏を伯爵家と過ごしました。その頃、令嬢のカロリーナへ想いを寄せ、4手連弾の名曲を書いています。これも是非弾いてみたい曲なんですけどね。まずは4月のリサイタルで演奏予定の20番、D.959を弾かないと。長大な曲なので、ずっと弾いていると迷宮に入り込んでしまいますから、映画はよい息抜きになりました。

 

僕が印象的に感じたのは前半のワンシーン。シューベルトは生活費の足しにするため、リュートを質屋に入れます。事情を察しシューベルトに好意を寄せる質屋の娘はこっそり規定以上の金額を出します。後日、顔を合わせて話をしている二人の耳にきれいなコーラスの歌声が聴こえてきます。「あれは僕の曲だ」。「ウィーン中で有名な歌よ!だったら、あなたはお金持ちのはずよ」と言う質屋の娘に「僕の曲は一度聴いたら覚えられるから、楽譜が売れないんだ」と返すシューベルト。映画の中では、シューベルトが言葉を愛していたこと、いつも詩を探し求めていたことなどが、さりげなく描かれています。言葉こそ、メロディーこそがシューベルトの魅力。他にシューベルト役の俳優が、私たちがよく知る肖像画に一番似ているから抜擢されたのでは、と思う程に、シューベルトらしかったのも良作の一因かもしれませんね。