先月テンポについてあれこれ書いたばかりですね。今日もまたテンポのことが頭に浮かんだので、少し続けてみます。というのもop.109の出だしのイメージが出来つつあった矢先、ある指揮者の方から、「それは遅いんじゃないの?」と言われたのです。「えっ、そうですか。」と、僕。表記はVivace,ma non troppo.=活発に、でも速すぎず。ベートーヴェンの「速い」がどれくらい速いのかは分からない。時速40キロで疾走する馬車に乗って速いと感じて、時速200キロのICEに乗って遅いと感じるかもしれないように、音楽の場合「速い」というのは感覚の問題でもあります。だから意見が分かれる訳です。ベートーヴェンを弾く時の大事な参考文献に、カール・チェルニー著「ベートーヴェン全作品の正しい奏法」があります。これは言わずと知れたベートーヴェンの愛弟子が書き下ろしたもの。愛弟子君は几帳面にメトロノームの数値を書き残してくれました。先生が弾いていたのを一つ一つ思い出して。ウィーンの名ピアニストで音楽学者のバドゥラ=スコダ氏は彼のマスタークラスで、この文献を知らないと言う学生諸君に対し、ひっくり返りそうになるくらい怒っていました。それ以来、僕は必ずこれに目を通してメトロノームの数値も確認するようにしています。そして悩む訳です。感覚違うよな、と。迷わず一音目が弾ける様に、もっと迷い続けたいと思います。
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